2015年12月23日水曜日

伊藤重平先生から学ぶ:カウンセリングにおけるゆるしの愛の理論<まえがき>

<まえがき>
 
私と伊藤重平先生の最初の出会いは、私が五十歳半ばの頃、牧師である夫が、友人の森和亮牧師から先生の御著書『愛は裁かず』を紹介され、「こんな本があるから読んでごらん」と渡されたことでした。
 それを読み、当時子育ての問題で苦しみの中にあった私は、大きな感動を受けました。その後先生の講演を何度か聴く機会を得ました。お話をうかがうたびに、「ここに真理がある」と心が躍るものを感じました。そしてまもなく「お茶の水クリスチャンセンター」の中の「マザーズ・カウンセリング・センター」で講座が開かれており、その講師として先生がおいでくださることを知ったのです。
 矢も盾もたまらず、すぐに申し込みました。1988年6月からその講座が始まり、一ケ月に約一回、一年間に数回開かれ、講座は三年続きました。八〇歳を越えるご高齢にもかかわらず、力強く、理路整然と、格調高く、豊富な知識を披瀝してくださいました。
 語られる言葉は、すべて聖書から理論を導き出され、カウンセリング講座というより、信仰そのものについてのお話でした。そして「いつも皆さんが真剣に聞いてくださるので、聞き手が良いと私も一生懸命に語ることができます」と励ましてくださいました。講演の最後にはいつも「神は愛なり。愛のほかに神なし。すべての愛は神より出ずる」と力強く、大きな声で結ばれました。
 その講座は毎回、感動と驚きでいっぱいで、喜びのあまりわれを忘れてしまうほどでした。先生はテープをとることを厳しく禁じられました。私は必死で筆記しました。私は正確に物事を記憶する能力に欠けているため、間違って記憶したり解釈してはいけないと思ったからです。本当に人類の宝のようなお話です。私は二千年の昔に戻ってキリストの実在と、ゆるしを伊藤先生の中に見たのです。
 ワープロで打った速記とはいえない原稿を先生にお見せして、間違いがないか訂正をお願いしましたところ、先生は「拙稿(講義筆記)の速記をお送りくださってありがとうございます。ゆっくり点検し反省する点は反省して進歩していきたいと願っています。」とのお便りをいただき、後にお電話で、「周りの人に印刷して配るのはよいが、出版しないように、それは裁くことばがあったり、まだ未熟な点があり、まだ進歩したいからです」とのお返事をいただきました。
 あれから時日を経、今、ますます多くの人が愛が見えなくなり、子育ての方法が分からず、人間関係に悩み、人生に方向を見失い、信仰については、多くに分裂して何が正しいのか見えなくなっている時代だと思います。それらに明快な答を出していてくださる先生のお話を、少しでも多くの人に知っていただくのが、貴重な教えを受け、記録を残した私の責任ではないかと思うのです。この貴重な学びを公にすることに、恐れを覚えつつ、使命感のようなものを感じております。
 先生の語り口はゆっくりと、筋道が立ち、説得的な話し方です。聖書を深く読まれ、そこから尽きぬ泉のようにあのようなすばらしい思想がわきあふれたのだと思います。「わたしが与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る。」(ヨハネによる福音書4章14節)
聞き取れなかったところ、意味の取り違い、抜けたところ、また専門分野での間違いも多くあると思いますが、そのままにしました。重複したところも多くありますが、繰り返し聞くことに意味があるので、ずいぶん削りましたが、残したところも多くあります。語調を読みやすいように適度に変えています。内容については、(第1次3回)が他の用事で出席できず抜けています。間に5回分の特別に講義を入れました。多くの間違いがありましても、私の責任において、おゆるしいただきたいと思います。
 私の数十年の信仰を振り返るとき、伊藤先生にお会いする前は神を恐れる信仰でした。人から責められ、裁かれ、苦しく重荷を負う足取りでした。それには私自身に人を裁く思いがあったことに気づかされました。ゆるしをいただいてから楽になり、恐れが取り除かれました。
先生の御遺志はすべての人が、カウンセラーとして熟達し、隣人に仕える人になることだと思います。主として子どものカウンセリングを専門とされましたが、この講座の内容は、大人のための道しるべでもあります。人の心がどういう心理機制で動いていくか、それを深く分析し、それが解る時に、人間関係の悩み、人の苦しみの解決に光を与えていただけます。
 先生のお考えに私の思い違いや理解不足があり、「そこは違うよ」、とおっしゃられないかと恐れますが、そこは読者の皆さまが、尽きることのない神の愛を基に許しの愛を体験してくだされば、先生もお許しくださるのではないかと想像しております。

 その後、25年。いろいろなことがあり未熟ゆえに涙を流し、苦しみ、失敗を重ねる歩みでしたが、いつも「ゆるしの愛」の原点に返って物事を考えてきました。今も「ゆるしの愛」の思想がなお新しく、その考えはこの混乱の時代に最も必要とされていると思います。伊藤先生の指先は神の国を指し示しておられると思います。(あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする。ヨハネ8章32)

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